第05節
駅務室の第一発見

駅務室は、昨夜の雷雨の余韻を微かに残す、湿った空気が澱んでいた。窓はぴったりと閉ざされ、分厚いカーテンの隙間から差し込む朝の光は、部屋の隅々までを照らすにはあまりにも頼りない。鳴海悠人は、一歩部屋へ足を踏み入れると、その場の空気を吸い込むように一度深く息を吐き出した。彼の知的な眼鏡の奥の目は、すでに部屋全体をゆっくりと見回している。

沢村茜は、デジタルカメラを構え、部屋の様子を記録し始めた。シャッターの乾いた音が、静寂に包まれた空間に響く。活発なショートヘアが、彼女がカメラを構えるたびにわずかに揺れた。腰をかがめて床の微細な塵までレンズに収めようとすると、ジャケットの袖口が冷たい床に触れた。

「まずは、全体を」鳴海の声は抑揚がなく、まるで独り言のようだった。「それから、細部へ」

鬼塚駅長の遺体は、執務机に突っ伏したままだった。背中からは、古びた真鍮製の信号ラッパが突き刺さっている。その鈍い光沢は、部屋の薄暗さの中にあってもはっきりと見て取れた。鳴海は、一歩ずつ慎重に机へと近づく。床には、昨夜の嵐で外から吹き込んだらしい、ごく僅かな泥の痕跡が残っていたが、それは遺体とは関係のない位置にあるように見えた。

「これは……」沢村が、遺体から少し離れた壁際の棚を指差した。そこには、同じ形の信号ラッパがもう一つ、丁寧に磨かれて置かれている。「凶器と同じもの、ですね」

鳴海は何も言わず、机の上の遺体に視線を戻した。その顔はほとんど見えず、制服の背中がわずかに持ち上がっているだけだ。彼の右腕は机の上に投げ出され、指先が宙を掻くように開いていた。鳴海は、遺体に直接触れることを避けながら、その指先へと視線を向けた。指と指の間、爪の隙間に、何か微細なものが挟まっているように見えた。彼は眼鏡を押し上げ、もう少しだけ身を乗り出す。しかし、それ以上近づくことはしなかった。

次に、鳴海の目は机の上の置き時計に引き寄せられた。真鍮の枠に収められたそれは、針を止めたままだった。午前一時二十分。それが、針が指し示す時刻だった。鳴海は、その時計をまじまじと見つめた。彼は無意識のうちに、自分の腕時計に目をやった。

森山恵美が、部屋の入り口付近で小さく息を呑んだ。「駅長は、いつも時間を正確に守る方でした。あの時計も、狂っていることなんて……」

鳴海は森山の言葉に反応せず、再び置き時計へと視線を戻した。彼は素手で触れることなく、指先で卓上の書類をわずかにずらし、時計の台座の周囲を丹念に観察した。埃が均一に積もっているように見える。

「窓は、どうでした?」沢村が尋ねた。

「内側から、しっかりと施錠されていました」森山が答えた。「私が、確認しましたから」

鳴海はゆっくりと窓へと歩み寄った。厚いカーテンをそっと手で払い除ける。窓枠は木製で、長年の使用によって表面は擦り減っていた。彼は、窓の内鍵に指を伸ばしかける。その指先は、鍵穴の周囲をなぞるように動いた。小さな傷が、わずかな光を反射しているように見えた。彼は一度、その手を引っ込めた。そして、指先をわずかに湿らせてから、もう一度鍵穴の縁をなぞるように触れた。

「他に、変わったところは?」鳴海は、声のトーンを落として尋ねた。

森山は首を横に振る。「特に。いつもと、何も変わりありませんでした」

鳴海は窓から離れ、部屋の中央で立ち止まった。彼は、その場で静かに、もう一度部屋全体を見渡した。机、椅子、棚、そして壁。どれもが、普段通りの場所にあるように見えた。しかし、彼の視線は、遺体の右手の指先と、置き時計、そして窓の鍵穴の三点を、繰り返し行き来していた。沢村は、彼の視線の動きを追うように、再びカメラを構え直した。彼女の活発なショートヘアが、今度は肩に触れるほどに大きく揺れた。