第18節
思わせぶりな沈黙

夏椿終着駅の事務室は、被害者である鬼塚駅長の殺害現場となった駅長室の隣に位置していた。事件発生以来、そこもまた捜査の対象となり、今は最低限の業務しか行われていない。森山恵美は、疲労の色を隠せない顔で、カウンターの内側に立っていた。鳴海悠人と沢村茜は、そのカウンター越しに森山と向き合っていた。窓の外では、夏の豪雨が激しく打ち付け、時折、遠くで雷鳴が轟く音が聞こえていた。

「森山さん、改めてお伺いしたいのですが」鳴海は手帳を開きながら、落ち着いた声で言った。「鬼塚駅長は、何か特別なものを肌身離さず持っていらっしゃいましたか? 例えば、古い鉄道会社の社章のようなものとか」

森山の顔色が、一瞬にして変わるのを沢村は見て取った。彼女は、カウンターの端に置かれた、埃をかぶった古い木製の書類入れを無意識に庇うように、わずかに体を寄せた。その書類入れには、色褪せた背表紙の鉄道雑誌が数冊、立てかけられていたが、その奥には、もっと個人的なものが隠されているように見えた。

「さあ……そのようなものは、存じ上げません」森山は、口元に薄い、どこかぎこちない笑顔を浮かべた。それは、まるで仮面を被ったかのように、目の奥までは届いていない。「駅長は、職務に忠実な方でしたから、個人的な品を常に持ち歩くようなことは……あまりなかったかと存じます」

彼女の言葉は途中で途切れ、視線がわずかに泳いだ。沢村は、森山の右手が、いつの間にかカウンターに広げていた古い時刻表を、そっと覆い隠すように置かれていることに気づいた。それは、現在使われているものとは明らかに異なる、薄茶色に変色した紙でできた、かなりの年代物に見えた。その指先が、時刻表の縁を無意識に撫でる。

鳴海は、森山の変化に気づかないふりをして、さらに尋ねた。「しかし、遺品の中には、そのような品も含まれていました。かなり年季の入った、昔の鉄道会社の社章です。それが、駅長が大切にされていたものだとすれば、何か心当たりはありませんか? 例えば、その社章にまつわるエピソードなど」

森山の表情は一瞬硬直し、それから急に居住まいを正した。彼女の背筋はぴんと伸び、それまでの柔らかな雰囲気が消え失せる。「失礼いたしました。そのような個人的な品については、私ごときが申し上げるべきことではございません。駅長が何を大切にされていたかなど、私のような者が軽々しく語るべきことでは……」

彼女の言葉遣いは、それまでの親しみやすい調子から一変し、事務的な、そしてどこかよそよそしいものに変わっていた。その声には、微かに震えが混じっていたが、彼女はそれを押し殺すように、顔をわずかに伏せた。

「なるほど」鳴海は静かに手帳を閉じた。「では、その社章について、何かご存知の方がいらっしゃるかもしれませんね。例えば、駅長と長年の付き合いがあった方とか。あるいは、その品をどこかでご覧になったことがある、とか」

森山は視線を落とし、カウンターの表面を指でなぞった。その指の動きは、何かを隠そうとしているかのように、落ち着かない。「それは……私には分かりかねます。駅長のプライベートなことは、あまり存じ上げませんから。ただ……」

彼女はそこで言葉を区切ったが、続きを言うことはなかった。沢村は、森山の言葉の奥に、何かを隠そうとする強い意志を感じた。それは、鬼塚駅長への深い忠誠心からくるものなのか、それとも、もっと別の、個人的な理由があるのか。事務室の窓の外では、依然として雨が激しく打ち付けていた。雷鳴は遠のいたものの、重苦しい空気は駅全体を覆い続けている。

「そうですか」鳴海はそれ以上は追及せず、代わりに別の質問を投げかけた。「では、少し話は変わりますが、事件当日、駅長室から何か物音が聞こえたようなことはありませんでしたか? 例えば、雷の音とは違う、何らかの衝撃音のようなものが」

森山は、大きく息を吐いた。その吐息は、わずかな安堵を含んでいるようにも見えた。「いいえ、全く。あの日は雷鳴がひどくて、何もかもかき消されるようでした。駅長室は防音もしっかりしていますし、あの騒ぎの中では、何か特別な音がしたとしても、気づかなかったでしょう」

彼女はそう言いながら、再び無意識のうちに、書類入れの陰にある何かを隠すように体をずらした。沢村は、その書類入れの奥に、わずかに覗く古い写真立ての縁を見逃さなかった。それは、埃をかぶってはいたが、丁寧に磨かれた真鍮製のように見えた。写真立ての中の写真は、逆さまになっているのか、あるいはただの台紙なのか、判別できなかった。

鳴海は、その写真立てには触れず、森山の顔をまっすぐ見た。「そうですか。しかし、人間というものは、案外、聞こえないはずの音を聞き分けたり、見えないはずのものを見たりするものです。特に、心に何か引っかかることがある場合は。森山さんは、何か心当たりがおありなのでは?」

森山は、その言葉に唇を噛み締め、沈黙した。彼女の顔には、疲労だけでなく、何か深い悩みが刻まれているように見えた。その視線は、鳴海の鋭い眼差しから逃れるように、再び手元の古い時刻表へと向けられた。沢村は、この駅に閉じ込められた人々の間に、まだいくつもの秘密が隠されていることを確信した。そして、その秘密の一つが、今、目の前の女性の心の中に固く閉じ込められているように感じられた。