第06節
孤立の島、断たれた通信

書斎の扉を固く閉ざし、氷室は皆を診療所の待合室へと促した。そこは日中こそ患者で賑わうが、今はただ嵐の音だけが支配する、がらんとした空間だった。神崎所長の遺体が運び出される間、誰もが硬い表情で椅子に腰を下ろしていた。

東野悟は、その場に似つかわしくないほど強くスマートフォンを握りしめていた。彼の神経質そうな顔に、画面の青白い光が揺らめく。指先が何度もディスプレイを滑り、通知を確認するような仕草を見せるが、すぐに諦めたように画面を消した。その動作は、焦燥を隠しきれない。

「やはり、通信状況が…」東野の声は、努めて平静を保とうとしているものの、わずかに上ずっていた。「本土の警察には、なんとか連絡を取りましたが、詳しい状況を伝える途中で途切れてしまって。フェリーの欠航情報も、更新がないままです」

橘健太が、手元のメモ帳を握りしめた。
「SNSとかは? 何か情報が上がってないですか?」

東野はゆっくりと首を横に振った。「一応、地元の掲示板やニュースサイトは見ています。ただ、嵐による停電や通信障害の情報ばかりで、確かなことは何も。診療所周辺の停電は一時的なものでしたが、島全体ではまだ不安定な地域もあるようです」

沢村悠斗が、静かに口を開いた。「本土からの情報も、当てにはならないでしょう。この島は、嵐になるといつも孤立する。通信も、停電も、珍しいことじゃありません」彼の言葉は、諦めにも似た響きを持っていた。

南原健は、腕を組み、不機嫌そうに窓の外を見やった。雨粒が待合室の窓ガラスを激しく叩きつける。
「そんなもん、見ても無駄だ。本土の奴らに、この島の嵐がどういうもんか、わかるわけがねえ」

早乙女葵が、小さく震える声で言った。「でも、何か、手がかりが…」

氷室は、そのやり取りを黙って聞いていた。彼は東野のスマートフォンの画面に映った、瞬時に消えたニュースアプリのアイコンを、一瞥した。そして、南原の言葉に反応した。「確かに、島の状況は、島にいる者にしか分からないこともある。しかし、外部の情報が全く役に立たないとは限らない」

東野は、恐る恐るスマートフォンを再び手にした。
「そうですね…例えば、今朝のフェリー欠航の情報も、昨夜の時点で出ていました。ただ、それは一般的な天気情報に基づくもので、実際にこれほど激しい嵐になるとは…」彼の視線は、再びスマートフォンの画面へと落ちる。そこで何かの通知が来たのか、画面が薄く光り、彼の顔にその光が反射した。しかし、彼はすぐにそれを閉じ、ポケットにしまった。

「何か見つかりましたか?」橘が尋ねた。

東野は、少し間を置いてから答えた。「いえ、特に。ほとんどが、嵐の被害に関する住民の投稿ばかりで。神崎先生のことに関するものは、まだ何も」彼の声には、僅かながら安堵の色が混じっているように氷室には見えた。

氷室は、彼らの反応を観察し終えると、ゆっくりと口を開いた。「通信は途絶えがちでも、全く不可能ではない。しかし、その情報は断片的で、確実性に欠ける。我々は、この閉じられた空間の中で、確かなものを見つけ出すしかない」彼の言葉は、静かに、しかし明確に、その場の空気に響いた。

そして氷室は、ゆっくりと立ち上がった。その視線は、待合室の隅にある、古びた掲示板へと向けられた。そこには、島の行事予定や、緊急時の連絡先が貼られている。そのどれもが、今となっては遠い過去の記録のように見えた。